DAppsゲームとは、分散型アプリケーション (DApps) の形を取るゲームのことですが、通常のソーシャルゲーム等との構造上の大きな違いは「ブロックチェーンを活用している」点にあります。
ゲームに限らず様々な DApps が生み出されていますが、そのほとんどは「特にブロックチェーンを使う意味はないのでは?」という疑問符がつくものです。しかし、 DApps ゲームは上手くブロックチェーンの強みを活用しやすい分野でもあります。
ブロックチェーンの技術が一般社会に親しむためには、娯楽を提供する DApps ゲームは重要な役割を担うことになるはずですし、この記事にて
- 従来型ゲームとの違い
- DAppsゲームの課題
- ブロックチェーンにおけるDAppsゲームの役割
を中心に考えていきたいと思います。
DAppsゲームとは何か?ソーシャルゲームとの違い
「ブロックチェーンを活用して構築されたゲーム」である DAppsゲームは、表面上は特に従来型のソーシャルゲームと異なりません。現在日本で有名なDAppsゲームと言えば、
- イーサエモンEtheremon - Decentralized World of Ether MonstersDecentralized World of Ether Monsters (Etheremons) - Train Your Mons & Earn Ether
- くりぷ豚Crypt-Oink | くりぷ豚Start breeding and trading Crypton today!
- My Crypto HeroesMy Crypto Heroes (MCH, マイクリ) | Crypto game from Japan!My Crypto Heroes (MCH) -where your time and passion will become your assets. Get great extensions and Land through collecting/training historical Heroes! Can be...
などがあります。
これらはゲームとしては従来型ソーシャルゲームと変わりませんが、ブロックチェーンベースで作られている点において異なり、それにより多くの特徴を兼ね備えています。
以下に、ブロックチェーンゲーム (DAppsゲーム) と従来型ソーシャルゲームとの違いを書いていきます。

アイテムやキャラクターに対する所有権がある
ブロックチェーンの一つの特徴に「トークン化 (Tokenization) 」が挙げられます。あらゆる資産をブロックチェーン上のトークンとして扱うことで、
- 暗号により堅牢に守る
- 取引に透明性をもたらす
- 資産がより流動的になる (すぐ売却可能)
といった強みを獲得できます。
同じ発想により、ゲームをブロックチェーン上で構築する DAppsゲームでは、アイテムやキャラクターをトークン化します。これにより、アイテムやキャラクターをブロックチェーン上のユーザー資産として記録することができるのです。
従来のソーシャルゲームでは、獲得したアイテムや育てたキャラクターは単なる「ゲーム内の幻想」で終わり、そのゲーム以外では何も使えず、あなたに所有権はありません。極端な話、ゲーム運営会社が一方的都合でユーザーのキャラやアイテムを消去することも可能です。
しかしトークン化してユーザーの所有権を認めてしまうことで、ゲーム運営会社はあなたのキャラやアイテムの価値を既存させる一方的行為をとることはできません。ブロックに書き込まれたデータを変更させることは時間が経てばほぼ不可能ですし、トークン化したアイテムを移動させることができるのは、秘密鍵を持っているユーザーのみです。
“私は2007年から2010年の間、World of Warcraft (※オンラインゲーム) を幸せにプレイしていました。しかしある日、運営の Blizzard社は私の最愛であった魔法使いの Siphon Life 呪文からダメージコンポーネントを削除したのです。私は泣き寝入りすると同時に、集権的サービスの恐ろしさに気づいたのです。すぐにゲームをやめることを決意しました。”
Vitalik Buterin (多くのDAppsゲームの基盤となるイーサリアム・ブロックチェーンの創設者)
アイテムをトレードできる
当然、トークン化したキャラ/アイテムの所有権は秘密鍵を持っている個人であるため、アイテムはBTCやETHなどの通貨に交換可能であり、そこから現金化することも簡単です。
これにより、自分が時間やお金をかけて育てたキャラクターやアイテムを誰か第三者に売却することができます。
ゲーム外部との価値交換が可能になることが、ブロックチェーンという様々なアプリケーションの土台を活用するメリットの一つです。
ソーシャルゲームでは課金すればそれっきりでしたが、DAppsゲームならば最後にアイテム等を売却すればいくらか原資を回収できますし、さらに貴重なアイテムならば差益を稼ぐこともできるかもしれません。

実際にDAppsゲーム開発者でも、「自分でアイテムやキャラクターをじっくり育てて、資産価値を高めることができる」という点を訴えかけることが多いです。ステータスが高くなったアイテムはそれに相応しい値がつくということです。
スマホからウォレットを通じて、簡単にキャラクター売買ができます。イーサエモンなら、売りたい値段を指定して売りに出せます。
ゲームの透明性
イーサリアムなどのパブリック・ブロックチェーン上の通貨の動きやコントラクト (プログラミングコード) は公開されており、誰でも検証可能です。
従って、ゲーム内のロジックをユーザーが確認することができるようになり、運営者が不正を行うことが非常に困難な状況ができあがります。
ソーシャルゲーム企業はよく、ゲーム運営者がプレイヤーを欺く操作を行い、不当な損失を被らせていることが知られています。

これは「透明性の欠如」の一言に尽きる問題で、ユーザーは運営者の行動を知る方法もなく、誠実な運営を信頼するしかありません。その体制がまた、営利企業の不正を誘発してしまいます。
しかしDAppsゲームが運営プログラムの透明性をユーザーに提供することで、よりユーザーとの信頼関係を強めたゲームを作ることが可能であるはずです。
ただ、DAppsゲームとはいえ「コードを公開しない」という選択肢を取ることは可能です。このあたりはユーザーがゲームを選択する際の指標にすべきだと思います。
CryptoKitties のソースコードは以下で参照できます。
もし不審なコードがあれば、すぐに誰かに指摘されるはずです。
キャラクターやアイテム数の透明性についても同様です。例えば CryptoKitties のアイテム数も Etherscan で分かります。
Etherscanによると猫のトータルサプライはこの時点で1,186,494匹です。
ゲームによってはアイテムごとの総供給数を表示することもできますし、「ユーザーのアイテムの貴重度」も可視化できます。大量に生み出されるアイテムは価値が薄まり原資を回収できないから購入しない、などの選択肢も取れるでしょう。
ユーザー獲得方法
ユーザーがイーサリアムアドレスを保有しているのなら、運営者は簡単にゲームのプロモーションをすることができます。通常のPRに加え、トークン化したアイテムを潜在的ユーザーに無料で配布 (エアドロップ) すればプレイのきっかけを簡単に与えることになります。
DAppsゲームのアイテムはブロックチェーン上で共通して通用するトークンなので、他のゲームとのコラボレーションなど多様なプロモーションが可能です。
プレイヤーのコミュニティ拡大もDAppsゲームの面白さ
「キャラクターやアイテムの資産価値を高めることができる」ことがDAppsゲームの特徴であり、そのためキャラクターをブロックチェーン上で売却することができました。
そういった特徴から、「ゲームのユーザーが増え、盛り上がることが自身の利益になる」という状況が生まれます。プレイヤーが増えるほど自分のアイテムの買い手が増え、流動性が高まるからです。
相互の利益だけでなく、運営がゲームロジックの透明性を保つことからも、ユーザーとの信頼関係を強めることができます。ユーザーコミュニティの成長は双方に明確なメリットがありますし、実世界での社会的な繋がりを通して運営とユーザー、ユーザー同士の結束を強められることも非常に大きな要素です。
DAppsゲームは「分散型」を緩やかに解釈するべき
DAppsとは (分散型アプリケーション, Decentralized Applications) を指すため、本来は運営者がおらず、ユーザー中心に運営権限を分散させた体制を取ることが理想です。
ただ、ビットコイン等の通貨システムや暗号通貨取引所ならまだしも、ゲームといったクリエイターの世界観が重要で、なおかつ大金を取り扱わない分野に関しては、あまり分散性にこだわらずに運営に権限をある程度握らせることが重要かもしれません。
また、複雑なゲームの構造を全てブロックチェーンで処理することは、スケーラビリティの問題から考えても困難です。
My Crypto Heroesの事例
以下のスライドは My Crypto Heroes の発表資料ですが、試行錯誤の末、「アイテム資産に関する重要な部分はブロックチェーンで、残りの複雑なバトル部分等はブロックチェーンを使わない」といった使い分けを選択しているようです。

プレイを滑らかにする必要もあり、一方でブロックチェーンのセキュリティや改ざん耐性を活用しなければならないバランスは、ゲームにより最適解が異なってくるでしょう。
DAppsの「分散性」はアプリケーションの性質によって解釈基準を変えるべき
「トークンの資産の部分のみをブロックチェーンに乗せているだけでは、それは “分散型” とは言えない。集権的だ」という批判をすることは簡単ですが、個人的にはDAppsの分散性は目的に応じて解釈を変えるべきかと思っています。
ビットコインやイーサリアムのような公共性が極めて強いブロックチェーンの場合は「分散」こそが価値ですが、例えばその上にのるゲーム等のアプリケーションでは緩く解釈しなければ、UXの問題からいつまで経っても多くの人が利用するに至らないかもしれません。

そこまで実現すると、ユーザーに不利益なルール変更に強固に反対することができますし、ユーザーが持つゲームへの影響力は更に高まります。
また、「分散性が低い」ということは従来型サービスに近づき、利益を生みやすくなることも意味します。

DAppsゲームは大多数の人々にとっての「ブロックチェーン入門」になりそう
ブロックチェーンの強みを活用している分野はもちろんゲームだけではありません。
特に分散型ファンドやレンディング、トレード等の 金融DApps が盛り上がっていますが、まだまだ社会に広く受け入れられる体制は整っていません。
これらを活用して生活を便利にするには深い理解に加え、何よりもイーサリアムのアドレスと暗号通貨を持つところからスタートする必要があることも、普及が難しい要因の一つです。
しかし仮に「ゲームを始める」という気軽な形であれば、ひとまず人々にブロックチェーンへの窓口を配ることには貢献してくれそうです。ある技術の浸透を娯楽やアダルトが牽引することは珍しくありませんし、同じことはブロックチェーンで起こると考えるのは不自然ではないと思います。
「人々が知らず知らずのうちにブロックチェーンを使っている」という本当の発展のきっかけになるのは、DAppsゲームだと思っています。
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