Uniswap や Radar Relay(0xリレイヤー) 、KyberSwapなどのDEXのレート情報を集めてベストレートでトレードする Totle が、DEXの分散度合いに関するブログを出しました。
これをもとに、有名な各DEXを改めて分類しなおし、いろいろな指標から「DEXの分散度合い」を考えていきたいと思います。
Totleの見解とは少し異なった見方もするので、時間ある方はぜひ上記の彼らのブログも直接読んでみてください。
検討対象のDEX
Totle のブログでは以下のDEXが検討対象に入っています。

- IDEX
- Binance DEX
- Radar Relay
- EtherDelta (動いてるか怪しい。FolkDelta推奨)
- KyberSwap (記事中ではKyber Network)
- Uniswap
- Eth2Dai
DEXの分散度合いテーブル
Totleの結論を独自にまとめた表です。

- Centralized… Kraken, coinbase, Binance, ShapeShift
- Non-custodial… IDEX
- Permissioned… BinanceDEX
- Permissionless… Radar Relay
- Off-chain… EtherDelta
- On-chain… KyberSwap, Uniswap, Eth2Dai
左へ行くほど集権的、右へ行くほど分散的です。
Decentralizedの指標
DEXとは decentralized exchange (分散型取引所)のことであり、主に「サービス提供を一元的に管理するような集権的存在がいない」という意味です。
もちろん、decentralized (分権/分散した) の定義は一つではありません。むしろ多くの指標を勘案した抽象的な概念であるため、「〇〇は分散している/していない」という議論は最終的には個人の意見で終わります。
ただ、指標に従えば一定の評価は可能です。Totleのブログではいくつか判定指標を用いているので、これを手がかりに分散度合いを考えてみたいと思います。
Totleのブログで触れられている decentralized 度合いを判定する指標から、今回は特に以下を重視して考えてみます。
- カストディの有無
- KYCの必要性
- 検閲耐性
- 流動性供給
- パーミッションレス性
カストディの有無(デポジット必要か)
ユーザーがあえてDEXを使う最も大きな動機であり、最も大切な機能です。
ユーザーに資産をデポジットさせることで一旦資産を預かる主体があるのかどうか、が焦点です。
通常の取引所では顧客資産を預かるため、ハッキングによるユーザー資産の流出リスクが発生します。

DEXと名乗るにはまず、「サービス提供者が顧客資産を保管しない」ことが最低限求められます。
ほぼ全てのDEXはこの基準をクリアしていますし、実際に多くのユーザーがDEXに求める特徴がこれです。
顧客資産を預かる場合、DEXとは評価することは難しくなります。
KYC (Know Your Customer) の必要性
取引所にウォレットアドレスと個人情報を提示しなければならない場合、情報流出のリスクが高まることはもちろん、ユーザーの取引や送金履歴はサービス提供者に筒抜けであり、それは政府にとってもアクセスしやすい情報源です。
KYC実施はマネーロンダリング防止など、規制対応のために強く求められますが、
- 匿名性/プライバシーが損なわれる
- 個人情報を大規模に管理するポイントが生まれる
ため、 decentralization の観点からは嫌われることがあります。
そんな中、”DEX” と呼ばれる中でも、IDEXは運営が完全なKYCを行い、顧客情報を保管します。
検閲耐性
ブロックチェーンの文脈での検閲耐性とは、「いかなる主体にも邪魔(検閲)されず、”誰でも” ブロックチェーン上で取引できる」ことを保証する意味です。
サービス提供者の悪意やミス、または政府からの圧力により特定個人の取引がブロックされたり取り消される可能性を排除する、重要な性質です。
検閲耐性はあくまでもチェーン自体の性能ですが、その上のアプリケーションであるDEXも「その性能を阻害していないかどうか」を判断することができます。
この点で考えれば、
- IDEX
- BinanceDEX
はこの基準を満たさない、と考えることができます。

IDEXは、ユーザーにまず資金をコントラクトウォレットにデポジットさせ、そこからトレードのバランス変化をIDEXサーバー内で記録します。
ユーザーのオーダーがマッチして残高情報が変化した後も、トランザクションはまだEthereumネットワークにブロードキャストされていません。

IDEXはKYCを行うことに加え、仕組み上はトレード執行後も、Ethereumネットワークに内容を送信する前であればIDEXが取り消すことも可能で、特定ユーザーの利用をブロックできます。公権力から何らかの不当な圧力を受けた場合、抵抗することも難しくなります。

BinanceDEXは、Binanceブロックチェーン上に構築されたDEXです。DEXの仕組み以前に、チェーン自体のバリデーターがまだ少数で影響力を保ち、なおかつ選別はBinanceが行います(少なくとも今は)。
この仕組みを考えると、DEX上の取引の取消や、特定ユーザーの取引ブロックは比較的容易です。

また、例えば Radar Relayも検閲耐性は備えていません(Totleの分類に準じた上記の表では検閲耐性あり、としています)。
Radar RelayはDEX構築のためのプロトコル、0x protocolを利用したDEXです。Radar RelayはDEXアプリケーションを提供し、オーダーブックの管理に責任を持ちます。
オーダーブックの管理はブロックチェーン上でないため(オフチェーン)、彼らが不当な操作を行う、または圧力により取引を選別することも仕組み上は可能です。
ただ、交換の執行はユーザーがスマートコントラクトを通して行うため、執行してしまえば取消/改ざんは困難です。
流動性供給(マーケットメイク)の自由度
DEXを作っても、流動性に欠けて板が薄い状態が続くと、取引所としての体制が整いません。
そこで、DEX運営者がトレードの流動性供給に責任を持つ場合があります。その場合、取扱トークンの選別をそのDEXに依存することになり「どんなトークン/デジタル資産をトレードできるのか」という大切な部分をDEX運営者に委ねることになります。

0x protocol を使い Radar Relay が構築されているように、流動性供給プロトコルの Kyber Network を使って構築されたDEXが KyberSwap です。
例えばユーザーが使うDEXである KyberSwap は、トークンの上場/選別に責任を持っています。従って、KyberSwapの流動性供給のシステムは分散化されているとは言えません。
(ただ、プロトコルのKyber Network自体には誰でも流動性供給が可能。上記の分散度合いの表では、プロトコルとその上のアプリケーションが少し混同されている)
しかしもう一歩分散を進めると、流動性の供給(マーケットメイク)までもパーミッションレス(許可なし)に誰でも参加できるようになります。

この点、Ethereum Foundation からグラントを受けて作られた Uniswap が抜きん出た存在です。
誰もが Uniswap に自分のトークンをプールしてマーケットメイクできます。
誰もが簡単に Uniswap を使ってプールにアクセスし、取引を執行できます。
誰でも簡単にメイカー/テイカーになれますし、その挙動の全てがスマートコントラクトで行われます。取引から得られる収益も公平にマーケットメイカーに分配されるため、Uniswapは利益を得るわけでもありません。
DEX(分散型取引所)というより、ユーザーが交換プロトコル(スマートコントラクト)に直接アクセスできる、単なるインターフェイスと言ったほうが正しい表現です。完全分散型に非常に近いDEXです。
DEXに何を求めるか?

様々な分散度合いのDEXがありますが、今ユーザーが強くDEXに求めているものは decentralized な取引所でなく、 non-custodial な取引所です。
分散されていなくても、顧客資産を預かりさえしなければ全てDEXと呼ばれているのが現状で、多くの人にとってはそれで十分だと思います。

それに限らず、多くの人がDEXを使うために Metamask やモバイルウォレットなどのソフトウェアに依存している現状では、それらがダウンすればユーザーはアクセスできなくなってしまいます。従って強い分散化の意味も弱まってしまいます。
またこういった議論も、EthereumやBinance chain, EOSなど1stレイヤーの分散度合いにも左右されますし、プロトコルとその上のアプリケーションも分けて考えなければなりません。(0xプロトコルとリレイヤー、KyberプロトコルとKyberSwapなど)
ただ、DEXの分散度合いを把握した上で「どれが分散化されており、どれは最早DEXではない」などと考え議論し、自分の基準を持つことはブロックチェーンを楽しむ者として面白いはずです!
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