DEX(Decentralized Exchange)は、ユーザーの暗号通貨を誰に預ける必要もなくセキュアにトレードできる環境を提供する取引所です。
暗号通貨は本来、信頼すべき第三者を置かずに機能するトラストレスな性質を持った発明ですから、その交換方法もDecentralizedな方法で行うことが自然です。
しかし現状では、Binance, Huobiなど従来型のCEX(Centralized Exchange)はよりスムーズかつ高い流動性を備えているため、DEXは取引高の観点からは大きく引き離されており、今後の発展が期待されています。
そこで今回は、CoinMarcketCapから得られる「各取引所の24h取引高」のデータをもとに、取引高の観点からDEXの現状を理解しつつ、今後の展望を考えていきたいと思います。
CMCからDEXの取引高データを集める
現状、DEXの取引高がよく分かるデータを提供しているのが、CoinMarketCapの “24 Hour Volume Rankings (Exchange)” です。そこから、各CEXとDEXの「24h取引高」データを導き出すことができます。
分析するためのデータとしては非常に乏しく、何らかの因果関係を導き出すのはほぼ不可能ですが、ここでは一定の仮説をサポートする材料として以下に多様な観点から考えていきます。
CEXとDEXの取引高比較
まず初めに、5月23日時点での24h取引高を、
- Top10
- 主要DEX
について表にまとめます。証拠金取引による売買が盛んなBitMEXは、DEXとCEXの利用割合を少しでも正確に現すため、あえて除外しています。
順位 | 名称 | 24h取引高 |
1 | OKEx | $1,539,037,634 |
2 | Binance | $1,324,992,665 |
3 | Huobi | $1,059,794,320 |
4 | Bitfinex | $652,127,092 |
5 | Upbit | $487,303,574 |
6 | Bithumb | $468,903,302 |
7 | HitBTC | $302,271,547 |
8 | LBank | $290,517,157 |
9 | GDAX | $220,793,160 |
10 | Bit-Z | $212,168,265 |
以下DEX | ||
54 | IDEX | $18,724,005 |
57 | Ethfnex | $17,303,851 |
74 | cryptofresh(BitShares) | $8,620,503 |
77 | Bancor | $7,675,387 |
81 | Waves DEX | $5,964,018 |
120 | CryptoBridge | $1,212,374 |
126 | EtherDelta(ForkDelta) | $653,793 |
134 | OpenLedger DEX | $538,560 |
137 | OasisDEX | $476,801 |
140 | DDEX | $433,581 |
145 | Radar Relay | $386,154 |
158 | Stellar DEX | $206,447 |
159 | Kyber Network | $198,721 |
168 | Token Store | $101,497 |
186 | Bisq | $17,929 |
191 | Paradex | $15,415 |
197 | RuDEX | $4,554 |
203 | BarterDEX | $747 |
i | 全取引所合計 ※MEX除 | $13,553,487,635 |
ii | DEX合計 | $ 62,534,337 |
iii | CEX合計(i – ii) ※MEX除 | $13,490,953,298 |
AirSwapや各0xリレイヤーなど、有望なDEXは他にありますがCMCに掲載されていないものは載っていません。
また、EtherDeltaはおそらくForkDeltaとの合算の数字?
トップ10はもちろん全てCEXですが、DEXは0x系やBitShares系など、おそらくCMCに掲載されている全てのDEXを列挙できたはずです。
CMCが観測した、BitMEXを除いた暗号通貨界全体の2018年5月23日の24hの取引高は 13,553,487,635 USD であり、日本円で約1兆5000億円です。
その中での、CEXとDEXのシェアをグラフにしてみます。
グラフを見れば分かるように、業界全体の取引高に占めるDEXのシェアは僅か0.4%となっています。
大規模なCEXでは信用取引も盛んに行われているため正確な利用割合を出せているわけではありませんが、大まかな傾向は分かるはずです。
DEX全体で計算しても、取引高では1位のOKEx単体の足元にも及びません。
DEX内のシェア争い
全ての取引高の0.5%にも満たないDEXですが、その中でも取引高のシェア争いが行われています。
IDEXとEthfinexの存在感が光ります。(cryptofreshはBitshares asset exchangeを表す)
ただし、特にEthfinexはFiat等にデポジットを求めており、全てを完全にトラストレスに運営しているわけではありません。
その点、他のDEXよりも取引高では圧倒的に有利だということは念頭に置くべきです。
ちなみに、CEXの取引高シェアは以下です。
こちらはCEX内のみのグラフですが、DEXの取引高は無視できるほど低いため、業界全体で見てもトップ10の取引所のみで半分の取引高を占めていることが分かります。
これらを考えると、やはり暗号通貨のほぼ全ての取引はCEXで行われており、DEXは注目度と比べると残念ながら全く存在感がないと言えるかもしれません。
0xとBitSharesをまとめる
プロトコル/プラットフォームごとの特徴をつかむため、0xリレイヤーとBitSharesプラットフォームを利用するDEXをまとめてグラフにしてみました。
CMCに掲載されている取引所で 0x protocol を採用しているのは、
- Ethfinex
- DDEX
- Radar Relay
- Paradex
の4つです。
しかしほぼ全ての割合がEthfinexの取引高になっており、なおかつ前述のように彼らはFiatやBTCの取扱い方法がCEXと同じで、純粋なDEXではありません。
そのEthfinexを除けば、まだまだ0xリレイヤーも大きな取引高を獲得するに至っていないということです。
BitSharesも同様で、ほぼ全てがBitShares asset exchange(cryptofresh)内での取引であり、CryptoBridgeやOpenLedger, RuDEXを加える意味が薄まってしまいました。
WAVESやBitSharesのように、BTCやFiatをスマートコントラクトで取り扱う方法は、トラストレスを担保しつつ取引高を高める手段として高く評価されるべきだと思います。
DEXサポートトークン数と取引高の相関関係を調べる
DEXの取引高の調査のため、サポートトークン(上場トークン)の数と取引高の相関関係を調べてみます。
2018年5月23日時点での、各DEXのサポートトークン数と取引高をグラフにしてみます。
上場トークンは、各公式サイトからカウントしています。
公式サイトに記載がなかった場合、CMCの通貨別取引高ページから数える方法を取っています。
従ってその場合、取引高が0であったトークンは数に入っていません。
黒字はトークンのみの取扱いで、赤字はFiatもBTCも持ち込んでいるDEXです。
取引高の差が非常に大きくアンバンランスな相関図になってしまいましたが、ここから読み取れる傾向としては、「注目さえ集めれば、BTCとFiatの取扱いが取引高を急激に高騰させる可能性がある」ということだと思います。
トークン数が少ないままに、取引高を高めているからです。
左下の取引高の少ないDEX群は非常に見づらくなっていますが、赤字を除いて考えればおおむね、トークン数と取引高は比例しています。
しかし、赤字のDEXはいずれもトークン数は少ないままで、非常に高い取引高を記録しています。この点は、やはりBTCとFiatのサポートが原因である可能性があるといえるでしょう。
トークンのみの取扱いであるBancorとIDEXの健闘について、
Bancorは知名度とトークン同士交換などの利便性、
IDEXは圧倒的なトークン数が原因だと思われます。
次に、左下のDEX群を拡大してみます。
黒字の「トークンのみ取扱い」のDEXに限って言えば、ある程度の相関関係を見ることができます。
Bisq, RuDEX, OpenLedgerの取引高の低迷は、トークン数が少なすぎることや、そもそもの知名度の問題でしょうか。
当然、この相関図で「取扱トークンが増えると取引高も増える」「Fiatを取り扱うと取引高が増える」といったことを導くのには不十分ですが、ある程度の傾向を理解する上での材料の一つになると思います。
DEXの課題
これまでCMCの24h取引高のデータからいくつかDEXに関するグラフを作ってきましたが、個人的にはこれらのデータから、DEX取引高の向上のための施策として効果が高い順に、
- Fiatの取扱い
- BTCなどクロスチェーン実装
- 上場トークン数の増加
- UI/UXの改善
が挙げられるという仮説を立てています。法制度や技術の難しさを考えれば、手をつける順番は反対になるはずです。
また、どこまでトラストレスなDEXを求めるのか?も大きく重要になるテーマです。
上述したように、Fiatや複数チェーンのコインをトレード可能にすれば取引高は上がるはずですが、一部はFiatのデポジットや管理者を求めるソリューションであり、これでは純粋なDEXとは言えません。
しかし、暗号通貨の取引を活発にするためにもFiatの取扱いは特に重要ですし、徹頭徹尾トラストレスを求めることが必ずしも正しい解であるとはいえず、「どこまでのリスクを許容するか」をユーザーが考えることが大切だと思っています。
最終的にはクロスチェーンもFiatも、完全なトラストレスな状況で行えるはずですが、それまでの期間は個々でリスクと流動性のトレードオフを考えつつ、DEXを活用していくべきです。
0xやKyber, Bancorなどが業界を引っ張り、まだ全体の1%にも満たないDEXの取引高が、早くメインストリームに乗ってくることを楽しみにしています。
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