Kyber Networkは、暗号通貨界のPayPalになれるだろうか?【It Is More Than Just A DEX】

PayPal for Crypto Kyber Network

Kyber Networkは日本の暗号通貨業界でもよく知られたプロジェクトですが、あくまでも「個人が簡単にトレードできるDEX」としての側面だと思います。

 

Kyber Networkの「DEX」という観点からは、以下のブログで特徴をまとめています。

 

シンプルなトークン交換を実現する、KyberSwapの特徴と今後の課題。
ビットコインやイーサリアムなどの暗号通貨をトレードする際に欠かせないのがDEX(Decentralized Exchange)の存在です。 DEXを使えば、自分の資産を取引所に預けることなく資産の売買が可能になり、ユーザーはハ...

 

しかし上記ブログでも触れましたが、Kyber Networkのビジョンはそれにとどまらず、彼らは業界全体に根づく根本的な、もっと大きな問題解決を企てています

 

今回は単なるDEXを超えたKyber Networkの問題意識と、その壮大なビジョンに迫ってみたいと思います。

Kyber Networkを単なる「DEX」として捉えるだけでは、彼らの本質を見誤るかもしれません。

業界の発展に伴う “The Many Token Problem”

「Kyber Networkは、暗号通貨業界のどんな問題を解決しようとしているのか?」を知るためには、彼らのmedium上の投稿が参考になります。

Medium.com で表示

タイトルは分かりやすく”It Is More Than Just A DEX”。「単なるDEXを越えて」です。

 

このブログの本質は、最後の”The Many Token Problem”の章にあり、ここにKyber Networkが終局的に解決したいと考える問題が凝縮されています。

 

結論として、Kyber Networkの持つ問題意識を端的に述べると、それはICOが乱立する昨今において、毎月数十を超える新たなトークンが業界に増え続けているところにあります。

暗号通貨界から失われた「統一性」

ビットコイン

そもそもビットコインは発行主体のいない国境を越えた利便性を評価されて世界中に広まりましたが、ICOが流行しトークンが溢れた結果、暗号通貨の「統一性」というメリットは薄まってしまいました。

 

スマートコントラクトや分散型アプリケーションの特長を活用するためでもなく、資金調達を唯一の目的にトークンを作り、無理矢理サービスにトークンを当てはめてしまっている例も少なくありません。

ICOが資金調達を容易にした反面、今後も業界はたくさんのトークンで溢れかえることになってしまいます。

 

この悲惨な将来をフィアットの世界に置き換え、分かりやすく述べた箇所を上記ブログから引用します。

Just imagine if you want to go to a fast food restaurant in the cryptocurrency world, you would have to go to one of the current exchanges and having to sell some of your Samsung tokens for McDonalds tokens, then withdraw them to your wallet (Paying the withdrawal fee) and paying for your food.

(訳)

暗号通貨の世界のファストフードレストランに行きたくなったとしましょう。そのためにあなたは取引所に行き、サムスントークンを売ってマクドナルドトークンを買わなければなりません。加えて手数料を払ってウォレットに出金してからやっと、食べ物を買えるのです。

ブロックチェーン上で動くDAppsは、プラットフォームそれぞれが持つユーティリティトークンを決済に利用するのが通常であるため、必然的に「各サービスで利用されるトークンが異なってしまう」という事態に陥ります。

ICOでトークンを分配している以上、「このトークンでしかサービスを使えないよ」という状況を作る以外にトークンを正当化する術はないことが原因です。

 

上記の引用はこんな現状を憂いつつ、「サムスンの機械を買うためにサムスントークンを買い、ハンバーガーを買うためにマクドナルドトークンを買う」といった非常に不便で想像すらしたくない社会を描くことで、これから暗号通貨業界が直面する課題を読者に投げかけているわけです。

 

当然、暗号通貨業界が順当にこのような未来を歩むことは受け入れられません。

既存社会でPayPalが解決した問題

クレジットカード

同じような問題は、何も暗号通貨に限りません。「サービスごとに決済通貨が違う」という問題は円やドルも同じであり、私たちは普段円を使いつつも、本来はアメリカの企業への支払いはドルで、ヨーロッパ企業へはユーロで決済しなければなりません。

 

この事実は、

  • 高い両替手数料
  • 時間と手間

を考えると非常に不便であることに気づきます。特に海外でわざわざ通貨を両替するときに痛感しますが、アメリカや中国でも円が使えればどれほど楽だろうかと考えた経験のある人も多いはずです。

 

これを解決する企業こそ、VISAやMASTERなどのクレジットカード企業であり、それをデジタル産業にも広く普及させたのが、1998年にアメリカで創業されたPayPalです。

PayPalとKyber Network

PayPalは、もともと大学で計算機科学を学んでいたMax Levchin氏がその専攻を活かし、「暗号化して便利になるものは何か」を考え、その対象にクレジットカード情報を選び、Peter Thiel氏と共に会社を設立したことが始まりです。

 

一旦PayPalに預けられたクレジットカード情報は暗号化され、どんな国の企業へもPayPalを通して決済をすれば両替をする必要がありません

ユーザーは円でもドルでもユーロでも支払えますし、かつ事業者は円やドルなど受取通貨を好きに選べます

 

それにより、個人事業主でさえ容易に世界中から決済を受け付けられる世界を実現し、世界中の人々のグローバルでの経済活動を一層活発なものに創り上げることに成功したわけです。

 

このようなPayPalの特性から、私は彼らを「通貨の翻訳者」であると捉えています。(本来はVISAなどの機能ですが、ここでは分かりやすくPayPalの機能であると考えます。)

暗号通貨界のPayPalへ

話を暗号通貨に戻します。

 

例えば多くのユーザーからの暗号通貨決済を受け付けるDappsなどのサービスは、支払いの利便性を高めるために、より多くの種類の通貨で決済を受け入れる必要があります

わざわざマクドナルドトークンを買わなければならないのならマクドナルドに行きたくないのと同じで、「このトークンでしか使えません」というサービス設計のままでは確実に多くのユーザーを逃すからです。

 

しかし実際には決済のために、各通貨のコントラクトウォレットを準備することは管理を複雑にしますし、何よりも稼ぎ出した利益を意図したことに流用するのに両替の手間がかかってしまいます。

 

よってDappsなどプラットフォームを運営するチームの理想は必然的に、

  • ユーザーは、BTCやETHでもERC20でも、全ての通貨で支払い可能
  • なおかつ、運営側は全てETHや自社トークンなど好みの通貨で受け取れる

といった、「ユーザーに広い決済選択肢を与えつつも、単一通貨で決済を受け取れる」という状態となります。

 

PayPalが既存社会にもたらしたソリューションが今まさに暗号通貨界で求めれているのであり、そこに目をつけて活動しているチームこそ、Kyber Networkです。

通貨を翻訳するKyber Network API

Kyber Networkはそのニーズに応えるため、リザーブの持つ流動性にプラットフォームがアクセスできるAPIを提供する予定です。

「リザーブとは?」という方はKyber Networkの特徴を確認してみてください。

 

White Paperでは、

Ethereum accounts will be able to safely receive payment from Bitcoin, ZCash and other cryptocurrencies via our payment APIs, through this trustless payment service.

私たちのトラストレスな決済APIを通せば、イーサリアムアカウントはビットコインやZキャッシュ、他の暗号通貨の決済を安全に受けることができます。

と述べられています。

プラットフォームはKyber Network APIを通して決済を受け付けることで、Kyberがリザーブの備蓄を活用してトークンをバックエンドで変換してくれるため、上記の理想の状態を実現できるということです。

 

White Paperでは他に、「ETHしか受け付けないICOに、ユーザーがBTCでもZECでも任意の通貨/トークンで参加する」という理想的な状況が例示されています。

Kyber NetworkAPI

Kyber NetworkがDEXとして一切ユーザーのトークンを保有することもなく、シームレスに通貨の翻訳を実現していることが分かります。

私たちは現在、ICOに参加するため、自らのトークンを文句一つ言わずにETHと交換していますが、一度Kyber Networkを通してICOに参加すれば、今のような状況には二度と戻りたくないはずです。

 

これはICOだけでなく、どんなプラットフォームへの決済でも同じです。

 

まさにKyberがPayPalと同様の役割を果たすということであり、これこそ彼らが、「Kyber Networkは暗号通貨界のPayPalだ」と自らを定義する理由です。

PayPal for Crypto

(Kyber Network求人サイト)

 

多くのトークンが乱立する暗号通貨社会を一つにまとめ、より簡単な価値の交換を可能にし、この世界での人々の経済活動を活発化することこそ、Kyber Networkの本当のビジョンです

なぜKyber Networkなのか?

優れたDEXは数多くありますが、その中でもKyber Networkがこの問題に名乗りを上げている理由は、「リザーブという形式が、多くのトークン変換リクエストに安定的に応えることに適している」からだと私は考えています。

 

Kyber Network内ではリザーブがトークンを大量に備蓄し、ユーザーの交換リクエストに応えています。

当然、ユーザーの交換リクエストの偏りに伴い、リザーブ内のトークン割合にも偏りが出るわけですが、Kyber Networkがリザーブに提供するダッシュボードにより、リザーブは自動的に外部取引所と通じてトークン割合を簡単にリバランスできます

 

そのため、需要の高いトークンを素早く調達するなど、リクエストの偏りを予測し、それに応えるだけの十分な量を準備できることになります。

リザーブは取引高と利益が直結するため、「何としてでもDApps等の需要に応えよう」というインセンティブも持っています。

 

何を売買するかが完全にエンドユーザーに任せられているオーダーブック方式の取引所では、大量の需要の変化に素早く応えることは難しく、Kyber Networkのような役割には適さないと考えています。

Kyber NetworkとPayPalの異なるポイント

個人的には、Kyber Networkが歩む道のりはPayPalほど茨の道ではないと考えています。

 

PayPalは金融サービスよりもまず、強固なセキュリティを構築することが最大の課題であり、それこそが乱立した同業者と差別化できた大きな理由でした。

PayPalの創業者のLevchin氏は、PayPalを“金融サービス企業のように振る舞うセキュリティ企業だ”と規定していました。

Levchin: I think a good way to describe PayPal is: a security company pretending to be a financial services company.

Levchin氏: PayPalをうまく記述する言葉は、「金融サービス企業のように振る舞うセキュリティ企業」です。

Livingston, Jessica. Founders at Work: Stories of Startups’ Early Days (p.8). Apress. Kindle 版.

ドルやユーロを扱うPayPalではセキュリティの穴をついたあらゆる詐欺行為と戦う必要があり、それに失敗したった一ヶ月で10億円規模を失うこともありました。

この点で言えば、あらゆる懸念が残されているとはいえ、全てブロックチェーンで行うKyber Networkのはその特性ゆえに、「セキュリティ面の懸念は限定的である」というアドバンテージがあるはずです。

Kyber Networkに気づかない世界

普段私たちは、VISAやPayPalなどの通貨の翻訳者を意識することなく、Apple Storeの有料アプリやNetflixの有料コンテンツを円で決済していますが、意識をしていないということは、「もし無くなれば決して我慢ができないサービス」である何よりの証拠です。

 

引用した”It Is More Than Just A DEX”の最後では、

The goal for Kyber is not just to be an exchange, but to be a service where people do not even realise they are using Kyber Network to convert their tokens to pay for their coffee.

Kyberのゴールは単なる取引所に留まることではなく、人々がコーヒーを決済する際にKyber Networkを通してトークン変換をしていることすら気付かないようなサービスになることです。

と述べられています。

 

本当に社会に欠かせないサービスは、その存在すら意識させません。Kyber Networkの本当のビジョンは、単なるDEXを越えて暗号通貨界のそんな存在になることです。

近い将来、人々が何気なく行ったビットコイン決済は、実はKyber Networkなしには成立していないのかもしれません。

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