2018年6月8日に、Kyber Networkのイベント、「Kyber Network 2.0」が行われました。
こちらはKyber Networkが以前から“Kyber Networkの本当の目的を知ってほしい”との思いから計画していたイベントであり、彼ら自身が暗号通貨の発展のイニシアチブを取りつつも他のパートナーを巻き込んでいくための決意表明としてのイベントです。
上記スクリーンの画像のように、ロゴもシンプルなものに変更になりました。
Kyber Network2.0イベントの主要な見どころ
今回のイベントの主要なコンテンツは以下のようにまとめられます。
- Kyber Network CEO, Loi Luu氏の挨拶
- Head of Business, TN Lee氏のプレゼンテーション
- Trust CEO, Viktor Radchenko氏のプレゼンテーション
- 新たなスケーラビリティソリューション、”Gormos” の発表
一つ一つ簡単に解説していきます。

Kyber Network CEO, Loi Luu氏の挨拶
まずはCEO Loi Luu氏の挨拶から。
アドバイザーやサポーター、コミュニティに関して感謝の気持ちを述べると共に、
今こそ、Kyber Networkのコアバリューを再確認するときです。分散型テクノロジーをメインストリームに持ち込むため、次のステージへ進みたい。
Kyber Network2.0は、暗号通貨のエコシステムを力づけるため、Global Decentralized Liquidity(分散型流動性)を提供します
と力強く語りました。
そのために彼が発表した、Kyber Network2.0のメインコンテンツが以下の3つです。
- KyberSwap(For Individuals)
- KyberLiquidity(For the Ecosystem)
- KyberReserves(Liquidity Powered by the Community)
KyberSwap (For Individuals)
こちらは、普段のトークン交換(トレード)で利用するためのDEXにつけた名前です。その名の通り、トークンスワップ(交換)をサポートします。
KyberSwapと呼ぶ理由は、「簡単で安全なトークン売買を一般ユーザーへ届ける」ことにフォーカスし、ハードルの高い分散型テクノロジーをメインストリームに持ち込むため
と話し、”安全なトークン売買をいかに使いやすく一般ユーザーへ届けるか”を考えていることを示してくれました。
KyberSwapのゴールは、分散型ファイナンスの利益を可能な限り多くのユーザーに届けることです。
KyberSwapのサイトはこちら。6月末に本格リニューアルで、ETH経由不要なトークン同士の直接トレードもサポートされます。
KyberLiquidity (For the Ecosystem)
こちらのKyber Liquidityこそ、彼らが暗号通貨界で大きな存在感を放つ理由です。
数千のトークン、数百のDApps、数十のプロトコルを生み出すイノベーションの副作用として、各プラットフォームの分断が起こります。
この問題を放置すると、エコシステムは一つになりません。
各アプリケーションは利用料として各々のトークンを要求するため、ユーザーはサービス利用のためだけにトークンを購入することを余儀なくされ、それがエコシステムの分断につながっていると彼らは主張します。
こちらの問題に対するKyber Networkのスタンスは、以下のブログに詳細にまとめていますので是非ごらんください。

Kyber Networkは、彼らの持つ流動性を活用し、暗号通貨のエコシステム内での価値の循環を促進させようとしています。
エコシステムの価値とは、「いくらの資金がエコシステムに流入したか」でなく、「いくらの価値がエコシステムを循環したのか」にかかっています。
Kyber Networkは様々なDAppsと統合し、バックエンドでのトークンの自動変換を提供し、暗号通貨エコシステム内のシームレスな価値の循環を実現しようとしているのです。
KyberReserves (Liquidity Powered by the Community)
Kyber Networkは、Reserve(リザーブ)と呼ばれるトークンプールを複数保管しており、これが彼らの持つ流動性の源泉となっています。

今回の発表で、より一般の人々がリザーブとしてネットワークに参加できるよう、APIやプロトコルが公開されることが明らかになりました。
注目は2018 Q4での “Open Protocol” です。今まではKyber Networkと正式に提携を組んだ上でしかリザーブになれませんでしたが、ある程度の流動性を持っていればKyberチームの承認なしにKyber Networkの流動性プロバイダ(リザーブ)になれるということです。
多くの人数の参加により、Kyber Networkの流動性増加は大きく加速します。
Kyber Networkの全ての流動性の源泉はリザーブであるため、「リザーブをいかに充実させるか」は彼らにとって非常に重要なファクターとなっています。
Kyberチームは度々、「リザーブになるためには少なくとも1000万円以上の流動性が必要」という基準を示してきましたが、明確な基準や条件はまだ不明です。
複数人から成るファンドのように運営することも考えられますし、その場合は一層多くのコミュニティがKyber Networkへ参加できるようになります。
詳細のドキュメントが7月にリリースされることが発表されました。
ここでの大きなニュースは、プロトコルの公開により、各ウェブサイトやDAppsが気軽にKyber Networkのリザーブへ接続できるようになるということです。
これは、あなたのウェブサイト上で KyberSwap を自由に提供できることを意味します。
暗号通貨のユーザーを抱えるサービスは、より自由にKyberSwapを自社サービスに統合できるようになるはずです。
新たなロードマップによると、これらは 2018Q4 に実現される予定です。
Head of Business, TN Lee氏のプレゼンテーション
KyberSwapによる、新しいUI/UX
まず最初は KyberSwap の新たな UI/UX から。
ブラウザの左側のサーチタブからトークンを選び売買できます。USD価格も表示。
以下の以前のUIよりも、使い勝手と分かりやすさが大きく前進したと感じます。

”KyberSwap” にリブランディングする前のDEX
チャート機能の追加
コミュニティからのフィードバックを汲み取り、”KyberSwap”上でチャートを閲覧できるようにしました。
上記の “KyberSwap”としての新たな門出は、2018年6月末から始まります。
KyberGO の発表
“KyberGO” は、トークンセール(ICO)のための分散型プラットフォームであり、以前からサービス開始が宣伝されていた “IEO (Initial Exchange Offering)” と同じものです。

KyberGOは、ICO参加者としての投資家には、
- Kyber上場トークンならETH以外で投資可能
- 合理化/一本化されたUXでの参加
- KYCはKyber上で一度限り
というメリットを提供し、ICO実施するプロジェクトには
- 投資家に安全に参加してもらえる
- トークン分配をKyberに一任できる
- 投資家KYCをKyberに一任できる
というメリットを提供し、プロダクト開発に集中させます。
KyberGOプロジェクト第一弾は Trust Wallet
多くの聴衆を驚かせたのが、このKyberGOの第一弾のトークンセール(ICO)がTrust Walletであることの発表です。
Trust Walletはこのイベントの数日前にDApps開発等のプラットフォームとして “Trust Platform” の構想をMedium上で公開しており、その中で “エコシステムを繋ぎ合わせる仲介トークンを導入する” と発表していました。
そのためのICOをKyberGO上で実施するわけです。
こちらのTrust Platformのトークンシンボルは “TST” に決定しました。本来、KyberGO上のトークンセールは、KyberSwapで扱われているトークンなら投資可能です。
KyberGO上のICOなので、Kyber Networkの上場トークンならETH以外で参加可(日本人参加可なら)。$KNC $DAI $OMG $SNT $ELF $POWR $MANA $BAT $REQ $GTO $RDN $APPC $ENG $SALT $BQX $ADX $AST $RCN $ZIL $LINK $STORM $IOST $MOT $DGX $ABT $ENJ $AION $AE $BLZ $PAL $ELEChttps://t.co/zJZnBu8Bw1
— hory (@taisuke_hory) June 8, 2018
ただし、KyberGO最初のトークンセールのTrustに関してはETHでの投資しかサポートされていません。次回以降のICOで、KyberSwap上場トークンで投資できます。
TSTのトークンセールに参加したい場合は、ETHを準備してください。
その他、現在Kyber Networkにあるのは2つのリザーブですが、5つほどの追加リザーブをテスト中である旨の発表もありました。
Trust CEO, Viktor Radchenko氏のプレゼンテーション
KyberGOプラットフォーム上でトークンセールを行うことになった、Trust Wallet CEO のスピーチです。
ウォレットはブロックチェーンへの窓口となり、ブラウザを通せば全ての操作が可能になります。
なぜ KyberGO 上でトークンセールを行うのか?
KyberGO上でなら、ユーザーにシームレスで安全にセールに参加してもらえる
トークン分配などのセールよりもプロダクトにフォーカスしたい
などの理由を語ってくれました。
新たなスケーラビリティソリューション、 “Gormos” の発表
このイベントの重要な部分である、CEO Loi Luu氏の「ブロックチェーンのスケーラビリティを解決する、あらたなソリューション」の発表です。
ブロックチェーンが抱えるスケーラビリティ問題
TwitterやFacebookは、一秒に数千ものLikeやTweet, コメントを処理しています。
これらの数値は、DApps(分散型アプリケーション)を主流にするためのベンチマークとすることができます。
Loi氏はこのように、Facebookなど世界中の人々が活用しているサービスの処理能力に、ブロックチェーンのスケーラビリティを限りなく近づけるための施策について語りました。
現在のブロックチェーンは、
- 処理速度の遅さ
- 細かくかかる手数料
という問題を抱えています。
イーサリアムブロックチェーンでも一つの処理に最速でも15秒かかりますし、ビットコインでは数分から数時間待つこともあります。
クリックごとに15秒間待たされるゲームに耐えられる人は、どれくらいいるでしょうか?
さらに、DApps(分散型アプリケーション)の一つ一つの処理に手数料がかかる今のブロックチェーンでは、社会の主流を奪えそうにありません。
Plasma + Sharding = “Gormos”
そんなスケーラビリティ問題を解決するために満を持して発表されたのが、Gormos(ゴルモス)と名付けられたソリューションです。
PlasmaとShardingを組み合わせ、その中のsweet spotを活用することによりDAppsのスケーラビリティにアプローチします。
ルートチェーンのみならず、Gormosはサイドチェーン(Plasma)の中でもシャーディングを進めることによりスケーラビリティ解決に挑みます。
シャーディングを行うPlasmaチェーンこそ、Gormosチェーンです。
サイドチェーンでアプリケーションを走らせ、そこでもShardingを実行させます。
トランザクションをGormos内の各シャードに分割して処理させ、なおかつシャード間のコミュニケーションを最小限に抑えられるため、スケーラビリティを弱めることがありません。
プレゼンで使用された、PlasmaとShardingそれぞれ単体で活用した場合と、Gormosとの比較表です。
Gormosは従来の10~100倍のスケーラビリティを持ちますが、トレードオフの結果として「全てのDAppsで適用できる」という適用力を捨てています。
Gormosは全てのアプリケーションで利用できるわけではありません。しかし多数のアプリケーションのスケーラビリティを解決できます。
他にも、「Gormosチェーン内の1つのシャードごとに1通貨ペアを担当させる」というGormosを活用したDEXが例示されましたし、おそらくKyberSwapでもGormosは積極的に活用されるはずです。
Gormosのテストネットは 2019 Q3 であり、その頃には切実にスケーラビリティソリューションが求められるようになっていて欲しいです。
その他の見どころ
今回はKyber Networkに直接関係のない部分は割愛しましたが、他にも以下のようなプログラムが組まれていました。
- Republic protocol や DigixGlobal CEOなどのパネルディスカッション
- SparrowExchange CEO プレゼンテーション
- Trace to CEO プレゼンテーション
- Ethereumファウンダー Vitalik氏 プレゼンテーション
SparrowExchangeとの提携により2019年にKyberSwapでもオプション取引が可能になるなど、具体的な進展も発表されています。
何より最後のVitalik氏のプレゼンは貴重なものであるため、(英語のみですが)関心のある方はブログで取り上げなかった部分も是非ご覧ください。

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